テキスト

玉の杯が二つ、そのうち一つはすでに飲み干されている。それは、おまえが彼女の託しごとを引き受けた証の契りだ。 もう一つの杯には、まだ酒がなみなみとはいかぬまでも残り、ほのかな温みが宿っている。杯の縁には、薄く桜色の痕がついていた。 おまえには、その女性が何という姓で、何という名なのかもわからず、探し出した「琴の弦」が果たしてふさわしいものかどうかも知るすべはない。 ただ一つわかるのは、この天気では、一杯の酒などすぐに氷霜のように冷めてしまうということだけだ。 彼女はきっと、喉を通るぬくもりをこの杯に残そうと、相当な力を尽くしたに違いない。 これこそが、おまえに残された彼女からの礼であり、また彼女がこの世に残したただ一つの痕跡なのだ。