テキスト

老兵が井戸の壁を伝って降りて行く時、兜を飾る赤絹は、井戸の縁に引っかかって剥がれ落ちていた。 若い頃ほど身軽じゃなくなったのに、人を助ける回数は三十年前よりむしろ増えたと、ひそかに嘆いた。 薩宝の娘が彼を見ると、げっぷをしながら酔った調子で「来ると思っていたよ」と言い放つ。 彼も思わず酒をあおり、皺の中からは、十六歳頃の力が沸き上がってくるのを感じた。