テキスト
万勝町の人たちはいつも忙しく、犬たちもまた忙しく動き回っている。その中でもかしこちゃんは、万勝町でいちばん忙しい犬だ。
ときには畑の真ん中に立って案山子代わりに畑を見守り、ときには村の鶏が食事を終えて鶏小屋へ戻るのを、きちんと隊列を組ませて送り届ける。さらに、鵝鳥が他の犬をつつかないよう見張ることも、かしこちゃんが自分に課した大切な役目だ。
一日中働き通しで、ようやく腰を下ろしてひと息ついたころ、「かしこちゃん、かしこちゃん」と呼ぶ声が聞こえてくる。
きっと隣の鉄さんが、また手が回らなくなったのだろう。かしこちゃんは「ワンワン!」と返事をしながら、急いで駆け出していく。
ああ、もし自分がここからいなくなったら、この町はいったいどうなってしまうのだろう?かしこちゃんは、いつも本気でそんなことを思っているのだ。