テキスト

ひらひらと風は百花居を過ぎ、さらにトキンイバラを遣わして晩春の殿となる。 棚に満ちる濃い香りは千尺の雪のよう、御堂の中の花を惜しむ人を呼び戻す。 繁花居に「幽香別院」を残してはいるが、荼靡の花こと花止晴は、めったに帰ってこない。彼女はまるで捕えどころのない晩風のように、いつも慌ただしく行き来し、懐信の宿場や時楼にしばし留まることはあっても、すぐに姿をくらましてしまう。