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寒香尋の家のガキと初めて見た時、伊刀は鼻で笑った。 「青二才が、どこから湧いてきた?」 亡者の刀を見て逃げもせず、刀を抜いてくるとは。 その度胸は認めてやる。伊刀は考えるともなく考えた。「その肝っ玉が俺の斬撃に何発耐えられるだろうな?」 刀を振り下ろし、受け止め、圧倒し、切りつける...だが血飛沫は上がらない。 小生意気な青二才の驚きに揺れる瞳に映った一撃は、峰打ちであった。 運の良いガキだ。笑ってしまうほどに未熟な剣筋を、伊刀が覚えていたのだ。 寒香尋みたいな一筋縄じゃいかねぇ女の子どもが、なんでこんな天真爛漫に育つんだ? ガキには意外と顔が広いらしい。殺すより生かしておいた方が役に立つと、伊刀は考えた。 だが江湖の厳しさくらいは教え込まねば。 紫金の大刀を鞘に収めると、伊刀は言った。 「小僧、忘仙郷まで案内しろ」 ところが、おとなしく道案内するようなガキじゃなかった。 伊刀が周囲を探っている隙にガキは逃げ出した。 「俺に二言はねぇ。殺さねぇって言ったら殺さねぇよ」と、そう言ったにも関わらず。 「まだ信用ならねぇってか?俺が寒香尋に何かするとでも思ってんのか!」 しかし、年端も行かぬガキが少々知恵を回したくらいで、百戦錬磨の伊刀に敵うはずもなく... 濃霧の中、伊刀はわざとらしく小僧を呼ぶ声を上げながら、悠々と逃げ惑う影を追った。 捕まえる気があれば、この亡者の刀から逃れる術はないということをあのガキは考えもしないのだろう。 伊刀は、得意げににやりと笑った。 走れ、ガキ! もっと早く走れ! てめぇは寒おばさんの居場所を教えてるんだよ!