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ワンワン、ワンワンワンワンワンワン……ワンワンワンワンワンワンワンワンワン、ワンワンワンワンワン!!! 若へ: 兄貴は今回の旅で、大小さまざまな珍事をたんまり耳にしたぜ。昨日、宿場の茶屋で隣の机の茶飲み客が話してるのを盗み聞きしたんだが、そいつの隣人が嫁と喧嘩して、怒りのあまり刀を振るって自ら宮刑しちまったらしい…… つくづく思うが、この広い天の下、まともな人間と犬だけじゃ収まりきらんから、こういう変わり種が生まれるんだな。 本来なら兄貴は腹いっぱいのゴシップを溜め込んで、帰ったらお前とだべりながら酒の肴にしようと思ってたんだが……この犬生の奇縁ってやつが、ひっそりとやって来ちまったんだ。 昨日、飛花の港の画舫を通りかかったら、人混みの向こうから琵琶の調べがふわりと漂ってきて、シュッと一発で兄貴の魂を持っていかれた。大げさじゃねえ、犬生十年でこんなに力のある小唄は聞いたことがねえ! 兄貴のこの小さな心臓がよ……ドキドキドキドキ、押さえても押さえきれねえ。 ここまで言えば、若よ、もう察しがついてるだろうが、この信は暇乞いのためのもんだ。 道半ばで投げ出すのは確かに義理に反する、兄貴もわかってる。だがお前もよく言ってるだろう、「大侠客たる者、断つべき時には断つべし」と。犬生の第二の春が目の前にあるんだ、家のあの仕事は、兄貴としてはひとまず後回しにさせてもらうしかねえ…… だが安心しろ、兄貴は手放し店長みたいな無責任な奴じゃねえ。兄貴が愛を射止めたら、必ず夫婦双双で家に戻るぜ。彼女が曲を弾いて俺が穴を掘って、一緒にお前のあの小さな家を仲睦まじく切り盛りしてやるからよ。 お前の一番頼りになる伏禄坊より (手紙の追伸:あの琵琶を弾くお嬢さんだが、兄貴が調べたところ、どうやら梨園の名役者らしくて、なんとか、なんとか万春お嬢さんっていうらしい。えらく恥ずかしがり屋で、今に至るまで顔すら見せようとしねえ。兄貴はまず稽古場の裏庭に潜り込む算段だ。近水楼台ってやつで、追いつけねえわけがねえ!)