テキスト
世の中には、普段は見えない林がある。霧の深い夜にだけ現れるという。言い伝えでは、心の清い者だけが生きて出られるらしい。
昔、あるぼんやりした若者が迷い込んだ。霧の中を歩き続けたが、同じ場所をぐるぐる回っていると気づく。やがて小さな壊れた祠をいくつも見つけたが、何を祀っているのかは分からない。何も持っていなかった彼は、林のものを供え物にして、祠ごとに頭を下げた。すると、気づかぬうちに林から抜け出していた。
だが外に出てほっとした瞬間、自分の影が消えていることに気づく。影こそが本当の供物として林に残されたのだ。それ以来、その男は正気を失い、やがて行方も分からなくなった。