テキスト
「武庫宗?何の場所だ?」
彼は石守信の言葉に耳を傾けず、その目に浮かぶ切ない思いにも気付かなかった。
知っているのは、ただ日の目を見ぬ場所であり、闇に葬られた秘密。そして自分がその秘密の番人となることだけだった。
だが彼の志は?宿願は?屈辱は?誉れは?闇で闇を浄化することなどできはしない。地下で栄冠を掲げることなどできはしない。杯を交わして金を操り、暗がりで密約を結ぶことが、肩に刻まれた衝撃を帳消しにできるのか?
なぜ俺が?どうして選ばれた?
この世の不条理は王侯も庶民も、最も問うてはならない問いに突き当たる。「なぜ自分なのか」と。
石貞はかつて、己が多くの者と共に生きていると信じていた。しかし振り返れば、そこにあるのは己の足跡のみ。降伏将軍の息子という烙印、ただそれだけで、誰も彼の傍にはいなかった。
世の不義は剣で断ち切れる。では胸中の憤懣は?
あの日は二度と訪れない。
そう、二度と
違う!断ち切れる…この胸の鬱屈も断ち切れる!
眼前の兵器庫を見据える。地下に眠る無数の刀剣が、いずれ地上に還る日が来ると。
地下の者たちも、いつか陽の下に立つ時が来ると。