テキスト
長い歳月を経て、梨秦秦はついに、あの少年の名前を知った。
田英。
彼の名を指でそっとなぞる。一筆一筆、何度も繰り返しながら。
田英、田英......
うれしかった。
十年以上探し続けたその人が、自分の目の前に現れたのだ。
これが運命なのだろうか?
これまでは運命を恨み、抗い、決して従わなかった彼女だが、この時は初めて運命に感謝したいと思った。
たとえ彼が彼女を思い出さなくても、あるいは最初から覚えていなくても、それでいい。この再会を覚えているのは自分だけでいい、彼女はそう思った。
頼まれたことは......迷うことなく引き受けた。
彼の剣になり、手を血に染めることも厭わない。必要とされるなら何でもできる。
ただその助力には、一応「取引」の形を取った。
目が欲しいという彼女の条件は、ただの口実で本当は、どうでもよかった。
何も見返りを求めなければ、あの慎重な彼に警戒されてしまうから。
だが、契丹の使者を守ることは彼の計画の一部にすぎなかった。清風宿での暗殺こそがその目的だったのだ。
清風宿は唐の領土であり、防衛の要。誰もが出入りできるような場所ではない。
彼女はすぐに一緒に行かせてと、もう一つの条件を追加した。
彼は一瞬、沈黙した。
「清風宿に行って、何をするつもりだ?」
「もしあなたが帰ってこなかったら、目の見えない私はあなたを探せないもの」
彼女はその場しのぎの嘘をついたが、どうやら信じたらしい。
「目は必ず持ってくる。この田英、言ったことは必ず守る」
「信じないわ」
彼女は素っ気なく言い放つ。彼はため息をついて言った。
「三日後に発つ。時間通りに来なければ待たないぞ」
三日。それだけあれば十分だ。
旅支度を整え、心を決め、未練も悔いも残さずに、彼と共に死地に赴く覚悟ができる。
......もし、あの出来事さえなければ。
死を前に、なぜ花嫁衣装に着替えたのか、黎蓁蓁自身にもよく分からなかった。
いつかあの人が、かつての約束を果たしに湖底へ来ると、知っていたからかもしれない。
初めて会ったときに着ていたのが花嫁衣装なら、
別れのときも、それがふさわしい気がした。
もしかしたら、彼が思い出してくれるかもしれない。
何千日も前、二人が出会ったあの瞬間を。
あなたの願いを、叶えて。
どうか生きて。
そして......私のことを、忘れないで。
田英。
彼女はその名を、初めて、そして最後に口にした。谷間に響いたその声は、誰にも届かなかった。