テキスト
【三更天】
実は、三更天からの稼ぎはとっくの昔に手に入れていた。三更天の閻魔は俺の常連客でな。あいつが「人を探したい」と言えば、俺がちょっと足を運んで様子を探ってくる、という関係だ。今日もまた依頼があって、つい愚痴をこぼしてしまった。「俺って本当に運がないよ。他人からは一文も儲けられないのに、お前らみたいにちゃんと金を払ってくれる客はほんと貴重だよ」と。
ああ、それに今日も、わざわざ揚げ餅を買って持ってきてくれた。
ところがそんなことを言ったものだから、またいつもの「救済」とやらの屁理屈を言い出した。「この世で生きるというのは苦しみだ。早く死ねば、それだけ早く解脱できる」などなど。
俺は、奴が買ってくれた揚げ餅をかじりながら言ってやった。「それこそ、ただの屁だろ。生きてることがそんなに悪いのか? 生きてるからこそ、こうして揚げ餅が食えるんじゃないか!」そういう理屈なら、俺だって十分みじめな暮らしだろうに、なんでさっさと俺を“救済”しないんだ、とも言ってみた。
すると、その閻魔は本気の顔で「いいよ」と言い出したのだ。「私の刀はとても速いから、死ぬときには何も感じない」と。
...はあ!?さすがに怒りがこみ上げた。まったく、正真正銘の狂人だ!それで「もうお前の依頼は受けない。これで商売は終わりだ」と宣言したが、奴は平然と「それなら、他の者を探す」とだけ言った。
まったく、冷たい奴だ!少なくとも俺は、互いに多少の情はあると思っていたのに。
それでも立ち去る前に、奴はまたこう聞いてきた。「揚げ餅は、おいしかった?」と。俺が「おいしかった」と答えると、「じゃあ、次もこの店のを持ってくる」と言う。
...商売は終わりだって言ってるだろうが。「次」なんてあるもんか。本当に、この手の狂人が何を考えているのか、俺にはさっぱり分からない。
【墨山道】
今日はゴミ...いや、廃倉庫をあさって、何か拾えるものはないかと探していた。そこで、ちょうど若い娘が木切れを山ほどかき集めている場面に出くわした。
一目見て、墨山道の者だと分かった。本人はいくら首を振って否定しても、木切れ一本を宝物みたいに大事そうに抱えている姿を見れば、どうせ金の匂いがする相手じゃない。まあ、いいや。
【文津館】
文津館の連中には、前からちょっと苦手意識があった。今回もやはり同じだった。今日、思い切って翰林院の中に足を踏み入れ、こっそり様子をうかがってみたところ、文津館の人たちは皆、筆を走らせたり、絵を描いたりしながら、ぶつぶつと意味の分からない言葉を呟いている。一字一句、何を言っているのかさっぱり聞き取れない。俺はただ突っ立っているだけなのに、自分がひどく間抜けに思えてきて、場違いな居心地の悪さに耐えられなくなった。
そそくさと逃げ出そうとしたそのとき、若い男に声をかけられた。「しまった、追い出されるか」と肝を冷やした。
ところが、彼は俺に肉まんを二つ手渡し、さらに十銭を握らせて、「さっきからずいぶんうろうろしていたからね。困ったことがあったら、門番の弟子に言うといい」と笑って言った。
その肉まんは、正直言ってまずかった。パサパサで、味らしい味もない。でも、タダでもらったものに文句は言えない。文津館の連中ってのは、なかなか「いい奴ら」なのかもしれないな。