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伊刀は鍾王籌に殺されると思っていた。
かつて二人は兄弟のように過ごし、鍾は玄鉄を探して死人刀を作ってくれた。その恩に報いるため、伊刀は「この刀で鍾王籌を斬らぬ」と誓った。たとえ毒を盛られ命を狙われても。
倒れる直前、白装束の男が目の前に立つのを見た。
「余計なお世話だ」と思いながら意識を失った。
目が覚めると、鐘王籌の姿はなく白衣の男だけが残っていた。
天泉の門弟・諸清泉と名乗る男。まさか自分が毛嫌いする名門の人間に助けられるとは。
「鍾王籌に恨みがあるのか?」
「あるようでない」
「あるかないか、はっきりしろ! ややこしいんだよ!」
「......十三殺を討つために来た」
「なら俺もその一人だ。お前には鍾王籌を殺してもらった恩がある。今すぐ斬れ」
「斬らぬ」
「なぜだ」
「お前は他の十二人とは違う」
名門の人間は言葉がくどくて煩わしい。殺すと言ったり斬らぬと言ったり。伊刀は複雑な問題を考えることが嫌いだった。自分が他の奴らとどう違うのかも聞かなかった。とにかく諸清泉に命を救われた以上、恩は返さねばならぬ。
こうして二人は江湖を旅し、数年を共に過ごした。諸清泉が死ぬ日まで。
後世の言い伝えはこうだ。
死人刀は十二殺の十三番目、粗暴で身勝手なり。諸清泉は名門の俊英、無垢なる心を以て正義を貫いた。
もとより交わることなき両人なれど、死人刀は誓いを重んじ、諸は義を尊び、遂には無二の友となる。
諸亡き後、死人刀は遺言を果たすため、一人、仙の港へと赴く。決して約束を破らぬ男である。