テキスト
たまこという名の猫は、丸いものが大好きだ。
丸いものは速く転がるから、たまこは全力でそれを追いかける。腰をひねって飛びかかり、鋭い爪で素早く捕まえると、飾り紐のついた手鞠を頭の上に載せ、得意げな顔をする。
自分がどこまで走ってきたのかたまこには分からない。けれど観客たちはよく知っている。手鞠が見事に的へ吸い込まれた瞬間、わっと湧き起こる歓声と拍手に驚いて、たまこは思わず飛び上がりそうになる。
その日を境に、たまこは遊んでも遊び尽くせないほどの手鞠と、美しくやわらかな座布団を手に入れた。的へ手鞠を蹴り込むたび、夜には香ばしい小魚のご馳走にありつける。満腹になって手鞠や座布団に埋もれながら眠り、こんな日々が永遠に続くのだと信じて疑わなかった。
天幕に火が放たれた、あの日を目にするまでは。口にくわえていた果実がぽとりと落ち、ゴロゴロと音を立てて炎の中へ転がっていく。たまこは生まれて初めて、丸いものを追いかけず、くるりと背を向けて逃げ出した。
やがてたまこは稲を集めて巣を作り、あの丸い果実をそっと傍らに置く。周りに響くのは、虫たちの鳴き声だけ。けれど目を閉じれば、あのとき贈られた歓声と拍手が、今も耳の奥で鳴り続けているのだ。