テキスト
「星盗り」の異名が裏社会を震撼させたとの報せが小間使いから届いた時、魏止昔は高楼で杯を傾けていた。手懐の投剣を拭いながら顔に浮かぶ笑みを必死に押さえ込む。
「聞け、この颯爽たる異名を!見よ、民衆の喝采を浴びる侠士を!」胸に明月を掲げ、手は星辰を盗む。星盗りが手を伸ばせば、張家も李家も、民から搾り取った富を一厘残さず奪還する!
16歳の魏止昔、「星盗り」として燦然と輝き、疾風の如く駆け抜けていた。
しかし、狼山の戦い。豪雪が峠を塞ぎ、鉄甲の騎兵が国境を蹂躙し、難民の列が続く中、趙普が吹雪を割って魏止昔が身を潜んだ洞窟に現れた時、魏止昔は血刀を拭いながら苦笑した。その笑みの奥で、突如として故郷の竈の匂いが脳裏を掠める。
それが星盗りとしての魏止昔の最後の年だった。疲労が募り、ふと故郷が恋しくなる日々。
世を渡る鳥は、生涯を大空に捧げるべき存在。
だが翼に迷いが生じ、たった二枚の羽では万民を護れぬと悟った時、その鳥は空から消える。
代わりに奥御殿に坐す夫人が現れた。夫と膝を交え、民を救う術を探る日々が始まる。