テキスト
自分がこんなに遠くまで来ることになるなど、鴻は一度も考えたことがなかった。
北の滹沱へ向かう道は険しい。溢れる難民、逃兵との遭遇、襲い来る山賊たち...
旅の途中で髪は乱れ、青い衣は濡れ、荷物も失った。
だが、弟弟子たちから贈られた無事札だけは、ずっと肌身離さず隠し持っていた。
ただ、千里の旅のせいか、玉でできた札もいつのまにか角が欠けてしまっていた。
自分の不注意に落ち込みながらも、「暇ができたら直そう」と考える。
そうして衣を正し、再び歩き出す。
戦火にさらされ、同じように欠けたもう一つの場所へ向かうため。
その天地もまた、彼の手で埋められるのを待っていた。