テキスト
花理音の酒豪ぶりは天性のもの。酔うのは自ら望んだ時だけだった。
開封の「酔仙飲」、江南の「豊和春」、蜀の「竹葉青」…どれも甘く楽しい味わい。
酔花陰に入った初年に一度だけ酔い、その姿から「海棠花」の異名を得たが、同時に「酒が渋いこともある」と知った。以来、一度として酔ったことはない。
それから長い時を経て、一人の若き遊侠と出会う。
海棠酒を抱え、汗だくで真摯な眼差しを向ける青年を見た瞬間、花理音は「乱世の無垢さは美しい」という先代の言葉を理解した。
持ち続けた玉環が杯に落ちるのも気づかず、
「春より短いひとときだけ酔ってみよう」
と彼に寄り添い、そっと目を閉じた。