テキスト

もくたは、角門里のまわりに来たばかりの新参者の犬だ。ところが来て間もなく、この場所にはどうにも「おかしなところ」があると気づいた。灰だまりの隅から、子供が「生えてくる」のだ!しかも、ときには目が回るほどの速さで「生える」ことさえある。誰かがそこを通り過ぎたなと思った次の瞬間には、もうボロ布にくるまれた小さな子供が、一人ぶん増えているのだ。 もくたはこの奇妙な出来事を、金水門通りの犬の首領、りこうに報告した。 りこうは、にわかには信じなかった。これまで自分が見てきた子供というのは、庭で大切に育てられる存在だったからだ。子供が一人外に出るときは、必ず二人の大人が後ろについてきて、ご飯を与え、服を着せ、世話をしていた。それなのに、どうして灰だまりの中から子供が「生えてくる」なんてことがあるだろう? ところが、もくたに案内されて角門のまわりを一巡りしてみると、りこうもついに観念した。この世には本当に、「何もないところから子供が『生えてくる』」という、おそろしくおかしな出来事があるのだ、と。 さて、どうすればいいのか? 顔色の悪いその子供を見つめて、りこうは自分の小さな毛布をくわえて運んできた。もくたは道で拾った竹編みのかめを抱えて戻ってきた。それでも子供がいっこうに反応しないのを見ると、りこうはあわてて肉付きの骨を、もくたは自分の大好物のキノコをくわえてきて、その小さな口元に差し出した...けれど、その口はやはり何も言わず、ただ固く閉じられたままだった。 どうしていいか分からず、手も足も出ない二匹の犬は、焦りのあまりワンワンと吠える声を高くしていく。そのとき、背後からどなり声が飛んだ。 「うるさい! 何を騒いでるんだ...えっ、ここに子供がいる!?だれか!だれか、来てくれ!」