テキスト
伊刀は認めた――鷹匠の自分が雀に目を啄まれる日が来ようとは。
酒蔵での一戦が心地良すぎて、その小僧への過剰な信頼を抱いてしまったのかもしれない。
狡賢い小僧にまたもや裏切られ、寒香尋に救われる醜態。
伊刀は深いため息をつく。
「チッ、毛の生え揃ってねぇようなガキのお遊びにゃ付き合ってらんねぇ」
だが、彼は目的を忘れてはいない。何よりも大事な誓いのためにこの地に来たのだ。
ただ江湖は荒涼とし、旧友は散り散りになっていた。
寒香尋に伝言すると、彼女は一瞬、魂の抜けたようになり、伊刀は居心地が悪くなった。
生き残された者の表情は、どうにも苦手だった。
あの睫毛の震えに宿る何かが、心臓を締め付ける。
「江湖......忌々しい江湖め!」
「ずっと江湖を見てみたかったんだ」
小僧が言う。
伊刀は嗤いた。
「江湖? てめぇが? その舌っ先でどれだけ敵を作るか分かったもんじゃねえ。江湖の連中は俺みたいに寛大じゃねえぞ......」
だか、伊刀はこうも思った。こいつ、昔の自分にどこか似ている。
仙の港は良い場所だ。だが狭すぎる。ひな鳥が鵬になり、羽根を拡げるにはあまりにも狭すぎるのだ。
未熟な翼の鵬が巣から飛び出そうとするのは、誰にも止められない。たとえその先が万丈の谷底だろうと。
「よし!」
伊刀は膝を叩いた。
「行くぞ。俺が連れてってやる。開封まで!」
伊刀がいれば、あの小僧が谷底に落ちてばらばらになることもないだろう。