テキスト

猫は本来冬眠などしない。けれどはるひは、自分は少し特別な猫だと本気で思っている。 冬の足音が近づき始める頃になると、はるひはクマのように、あちこち駆け回っては巣材になりそうなものを探し始めるのだ。 熟れた果実をくわえ、畑からこぼれた麦の穂を集め、人間の家の前でニャーニャーと鳴いてみせて、軒下にある暖かな藁のベッドを見つけ出す。 喉が渇けば果実を少しかじり、空腹を覚えたら麦の穂をポリポリと噛む。もっとお腹が空いたら、人間に向かってニャーニャーと甘え声を上げればいい。やがて小魚の干物が、そっと藁のベッドの上に運ばれてくる。 はるひの冬は、毎年こんなのんびりとした調子で過ぎていく。 そして、最初の春告げ草のつぼみが厳しい冬の土を押し破ると、そのかすかな香りが、誰よりも早くはるひの鼻先へと届く。 「ニャー!ニャー!」とはるひが誇らしげに鳴けば、人々は顔を見合わせて「ははは」と笑い出す。 ああ、春が来たのだ、と。