テキスト
「見ろ、あのじいさん、また来たぞ!」
演武場の外、朱塗りの門の隙間から冷たい甲冑の光が二つ漏れていた。
新任の衛兵、阿景と阿達がひそひそ話していた。
「あのイカれ都督が来てから、俺たちゃ犬みてぇに訓練させられてる」
阿景は口を尖らせ、腰の帯を揺らしてじゃらりと音を立てていた。彼らが覗いていた老人は、演武場西側の人垣をじっと見つめていた。
三日前、老人は突然禁軍営の前に現れ、目はうつろで正気を失っているようだった。色褪せた古巻を携え、ぼろ切れ同然の古い鎧に錆びた横刀を下げていた。鞘の刻字は、すり切れて読めなかった。
当直の兵士によれば、老人は轅門にある石獣に手を当てて突然叫んだという。
「お前たちは十斤角弓すら引けぬのか!敵が来たらどう守るつもりだ!」
戸惑った兵士たちはやむなく老人を縛り、将軍の幕舎へ連行した。そのぼろ切れの下にはたくましい肉体が隠れていたが、目は濁りきっていた。
「護送…人…財…」
老人が突然、裂けるように叫んだ。それに驚いた兵士たちは一斉に刀を抜いたが、その夜は偶然にも府尹と将軍が幕舎で会談していた。
府尹は一部始終を見届けると一喝して兵士たちを制し、立ち上がって全員に退くよう命じた。
数日後、訓練会が催されることになった。
「大索が言うには、府尹様はあのじいさんの刀を触ったらしいぞ。親戚なんじゃねぇか?」阿景が阿達を肘で突いた。
「どうだかな。顔つきはあんまり似てねえが…」
阿達は首をかしげた。
「親戚じゃないなら、なぜ庇うんだ?まさか…」
阿景は目を輝かせ、何かひらめいたように続けた。
「あいつに聞けば、府尹様の目に留まった理由が分かるかもしれねえ。出世も夢じゃねえぞ」
「だめだ」阿達は冷や水を浴びせた。
「お偉い方の機嫌を取れば、名家の娘を娶れるかもだぞ?」阿景は声を潜めて説得し続けた。
「無理だって」阿達は一歩後ずさった。
「なら隊長になれたり…!」
「どうだか」
「夜勤が減ったり…!」
しばらく悩んだ末、阿達はようやく決心したように小さく息を吐いた。
「…やってみるか」
「そう来なくっちゃ!」