テキスト
褚清泉は己の命が長くないと悟り伊刀に三つのことを託そうとした。一つ目は、仙の港で江無浪の秘密を聞き出すこと。二つ目は、江無浪の秘密は国の運命に関わることであり、それを成し遂げずに死ぬのが心残りだという。三つ目は、香尋のこと...まだ言い終わらないうちに、伊刀から「俺はお前の使い走りじゃねえんだから、黙って体力を温存しろ」と叱られた。意外にも褚清泉は素直に黙り、目を閉じた。二人はその後、沈黙のまましばらく歩き続けた。 やがて、水の音が聞こえてきた。音は近づくほどに大きくなり、まるで檻を破った猛獣のように南へ流れていた。伊刀は縄を握り直すと、ただ一言「渡るぞ」と言った。
その声はすぐに水音にかき消され、諸清泉に届いたかどうかもわからない。もし届いていたなら、かつて独りで千里の道を北上し、この川を渡ったことを思い出しただろうか。そして今、明月は千里を照らしているというのに、もはや河を渡ることはできない。