テキスト

阿景と阿達はへとへとになって宿営地へ戻った。 阿達はわらの上に倒れ込み、すっかり気力を失ったが、阿景はそれでもじいさんの正体が気になり、じいさんの服の裾に目を凝らし、夜通し隠れてその動向を見守った。 古い巻物が少しずつ補われるたびに、じいさんの様子は落ち着いていった。月明かりの下で黄ばんだ紙を撫で、指先で巻物の端をこすっていた。 ある侠客が最後の一筆を入れると、 じいさんはふっと笑い、目じりに深い皺が寄った。ある夜、阿景はいつものように葦の茂みに潜んでいた。じいさんは河原に立ち、顔を上げて笑った。 その大きな笑いは風にのって広がり、鳥たちも驚いて飛び立った。元々はっきりしなかった横刀の刻字が光り、「帰義」の二字が浮かび上がった。 すると破れた鎧が揺れ、じいさんの輪郭はだんだんと薄れていった。やがてその姿は小さな光となり、夜風にのって西へ流れ、闇の中へ消えていった。 残されたのは、半巻の『河西地図』だけだった。 あまりに奇妙な光景に、阿景は目をこすって駆け寄り、地図を拾い上げた。ゆっくり広げると、そこには河西十一州から玉門関や陽関などの要塞まで、細かく描かれていた。 そして、中から一通の手紙がひらりと落ちてきた。手紙の字は穏やかで親しみのあるものだった。 「若者よ。ここ数日、さぞ失望したことだろう。 「わしは思い出したのだ。 故郷と大唐を、そしてわしの兵たちを。 彼らもお前たちと同じように、目を輝かせて帰る日を待っていた。」 「我々も命がけで護送し、乗り越え、肩を踏み合って見渡した。護送したのは地図であり、越えたのは祁連山の峠であった。そして踏み合って見たのは、砂漠に立つ硝煙と、その先にある長安城だった。 「すまなかった…ここ数日は、お前たちをわしの兵士だと勘違いしていたのだ。」 朝日が差すと、阿景は急いで宿営地に戻り、皆に話そうとした。しかしじいさんのことは皆の記憶からすっかり抜け落ちているようだった。 「いや、まだ手紙がある!」 と慌てて開こうとしたが、文字は消えていた。 「寝ぼけてるんじゃないか?」 と笑われ、阿景は首をかしげながら困惑した。 夢だったのか、それとも本当だったのか―― はっきり思い出せるのに、確かめるすべはない。 「阿景、早くしろ。飯がなくなるぞ!」 阿達の催促が聞こえると阿景は我に返り、仕方なく身支度を素早く整え、食事の列に加わった。 手紙は星屑のように散り、朝霧や炊事の煙に混じって西へ流れていった。