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邸岳は沈義倫との初めての出会いを忘れない。痩せっぽちの少年は学堂の隅で先生にこっそりと志を打ち明けた。「腹いっぱい食べられるなら……何だって良い」 この「志のなさそうな志」は当然の如く同窓の嘲笑を買ったが、邸岳だけは笑わなかった。彼の脳裏には、開封における貴族と平民の格差、つい先日起こった契丹侵攻による飢饉が浮かんでいた。考えを巡らせた彼は、突然に己の志を見出す。 ——「じゃあ俺たちが皆を腹いっぱい食べさせよう。『天下常平、黎民飢えることなし』を実現する!」 邸岳は誓いを実践した。純粋に人々を救いたかった。だが、その善意が招いたのは非情な虐殺だった。賊徒が邸宅に乱入し、人を斬り糧を奪った。炎と悲鳴が少年の脆い理想を飲み込んだ。 「皆を救いたかっただけなのに、どうして……?」 邸元ら親族の死体の前で、彼は抜け殻となった。 善意で善人を救えば悪党を利し、無辜の者を危険に晒す。 善人を見殺しにすれば、善人も悪人も死ぬが他は生き残る。しかし、他人の生死に無関心な者が、どうして無罪と言えよう? 邸岳は自問する。「そもそも乱世に善があってはならぬのか?」 「間違ってなどいない。善行は常に正しい」 長い時を経て邸岳は落ち着き、ようやく侠客の言葉が聞き取れた。その時、暴動から数か月が過ぎ、冥眠の塚の荒れ地には新しい墓が無数に並んでいた。 「善が罪なら、我々は出会えなかった」 墓前に跪く邸岳を見つめ、侠客は力強く言い切った。 そこで邸岳が墓碑から侠客へと視線を移す。彼は侠客を仔細に観察した。納得できる証拠を探るように――ついにその佩刀に目を留めた。 「あなたには力があるから善を貫ける。しかし私は刀を持たぬから無力だと?」 侠客は答えに窮した。剣を揮う時、彼女は何も考えていなかったからだ。正しいことだとは思わなかったが、それ以上は考えないようにした。彼女の目の前にいる少年は、あの惨劇を二度と繰り返したくない、初心を失いたくない、そう言って弟子入りを懇願した。 だが、この乱世において、善良とはあまりに贅沢なものだった。十年後、侠客すら俗世の荒波に飲まれ、邸岳は再び迷う――善の前提が力なら、あの侠客や親族たちはなぜ死んだ? どれほどの高みに立てば、ずっと善良でいられる? 「違う。原因は悪党の存在だ。悪党が惨劇を生み、善を挫く。つまり彼らが生きでいる限り、善人に未来はない」 成長した邸岳は思索に耽っていた。そしてゆっくりと、視線を恩恵町、河清軍……そして悪党らへと向け――手中の刀を握り締めた。