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しかし、時勢が崩れるのはいつも一瞬だ。明宗が病没し、皇権争いの幕が上がった。石敬瑭が燕雲十六州を割譲し、契丹の援軍を得て洛陽へ攻め上った。都が大混乱に陥る中、外へと逃げ惑う人々とは逆に皇城へ向かう王大演の姿は異様に目立っていた。 「不休――! 不休――!」と声を枯らして叫ぶ王大演の目に、玄武楼から炎が上がるのが見えた。友人の安否が気がかりでたまらない。 「ゲホッ……ここに……」と、お堀の方から聞こえた弱々しい声の主は、紛れもない葉不休だった。 必死で引き上げた相手は礼も言わず、まず懐の紙包みを確認する。油紙に包まれた棋譜が無事なのを見届けると、ようやく安堵した。 「どうして堀に落ちた?」 「運が悪かった。城門を出る際に押し合いになってな。ただ棋譜は油紙で守れたし、泳ぎも達者だったから君が来るまで耐えられた。改めて礼を言う」 珍しく真摯な口調の葉不休に、王大演は照れて耳を掻いた。 「別にお前を助けようとしたわけじゃない。明宗の戦歴を記した棋譜が目的だ」 強がる彼の様子に、葉不休は堪えきれず大声で笑い出した。そして、王大演が眉を吊り上げる寸前でようやく笑いを収め、真顔でこう言った。 「大演、象棋はしばしお預けだ。この棋譜を真の英主に託し、この乱世を終わらせよう」 王大演は頷いた。武芸の腕も財産もない二人は、若気の勢いで情報を探り、傷だらけになりながら目標の実現に向けてひた走った。石敬瑭を嫌い南下するも次々と壁にぶつかり、晋の英雄・王清を求めて北へ向かったが、晋に着く前に王清の訃報が入った。数年間は無為に過ごしたが、不惑を過ぎた頃にようやく出会った英主に出会う――後周の皇帝・郭栄だ。その北伐軍が彼らの住まう清河に駐屯するというのだ! しかし、長年の疲労から王大演が病に倒れる。彼が目覚めた時には、軍はすでに新たな場所へと移っていた。