テキスト
行商とは、時に賭け事と同じだ。確率を見て、投じる金と不確実性を量り、許容できる元手だけを賭ける。百発百中の商いなどない、儲かる時もあれば損する時もある。
康真珠は賭け事が嫌いだ。真の商人は時機を待ち、情勢と確かな情報に従って手際よく動けば損をしないと信じている。
ソグドの商人は、無謀な取引で損をするようなことはしない。
かつて隊商の全財産を投じて「真珠舟」を造った時も、波陳や於突などの伝手を押さえ、あとは唐軍の後ろ盾さえ得られれば万事うまく行くはずだと踏んでいた。
「どうして信じてくださらないのですか!」
「軍資金は焼け石に水でしょう。私に預け、軍印を貸していただければ、於突で玉石をさばいて十倍にして返します!」
「康さん、永遠に儲かる商いなどない。」
「郭将軍は戦に勝ち続けています。
なぜ私の商いだけを信じてくれないのですか?」
「戦にも負ける時はある...そのときは命を賭けて守るだけだ。」
康真珠は不満をこらえた。男の機嫌を損ねれば、ここで商いができなくなる。波陳の機嫌を取り、於突にも手土産がいる。何より唐に恨まれてはならない。
彼女は笑顔を作った。
「将軍、ご安心ください。税は一文たりともごまかしません。
将軍にとっても利のある話ですから...」
「た...たとえ損が出ても、私が何とかします!」
「税は納めてもらう。だが金は預けないし、軍印も貸さない。」
税だけの繋がりでこの地がどれだけ保つか、彼女は途方に暮れた。
その夜、康真珠は美酒を抱えて城壁へ登った。月の光に照らされた将軍と向かい合い、杯を合わせる軽い音だけが静かに響いた。杯を交わして親しげに話したが、商談はまとまらず、代わりに妙な約束を交わしてしまった。
旅するソグドの商人である彼女が、唐人のために井戸を掘る資金を出すという約束だ。井戸ができれば同胞の役に立ち、水があればオアシスが生まれてソグド商人の拠点にもなる。
とはいえ、将軍が口にした「故郷」や「月」といった言葉には実感が伴わず、本当に儲かるのか不安が残った。
さすがのソグド商人でも、今回は失敗してしまうのか。
酔いの回った康真珠はラクダにもたれ、月明かりに揺れる木陰をぼんやり眺めていた。
すると、ふとひらめいた、この取引はきっとうまくいくと。