テキスト
「無念」――それが大人になった石貞が最も頻繁に抱く思いだった。
戦場で受けた汚名は消えず、燕雲は戻らないのに弓をしまわねばならぬ無念。
義父である将軍が国を思い、全力を尽くしながらも進んで権力を手放す無念。
延慶の姫君と心が通じ合うも、政略結婚で幼い義弟・石保吉に嫁がせた無念。
無念だが、どうすることもできない。
彼はその思いを胸に沈め、無念さが募るたび地下で槍を振った。手の感覚を忘れぬよう、初心を失わぬよう、同じ型を何度も繰り返した。
しかしある日、容燕がそこに現れた。
最近の容燕は意図的に近づき、石貞の立場を探っているようだった。朝廷に仕える者とは距離を置く石貞だったが、容燕は武廟の仕掛けを作る合間、時折やって来ては黙って座り、彼の槍術を見守った。
「無念か?」と容燕が突然問うた。
「...ああ」
「私もだ」
これが、公務以外で交わした唯一の会話だった。
(朝廷の船を作る使命を負う威風堂々たる容将軍に、何の無念がある?)
疑問が頭を離れない石貞は義父を通じて彼女の過去を知ろうとした。
やがて容燕のことが分かってきた気がした。辺境で老兵から教わった草のトンボを作りながら、彼は思った。
(このトンボ...彼女に似ているな)
次に彼女が来たら、ちゃんと話そう。
そう思った矢先、彼女が船ごと爆死したという報せが届いた。
何度も繰り返した槍の型と積もった無念は、もう何にも乱されないはずだった。
「そうだろう?」と、石貞は動きを止め、笑ってまた槍を振るった。
「将軍、何かあったのですか?」と兵士が恐る恐る尋ねた。
「何もないが」
「ですが将軍...今の型、少し違っていたように...」