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「三軍、ご凱旋!都入りし天子に拝謁する。道を空けよ!」 長安街を、はためく軍旗が覆い尽くす。真紅の戦馬にまたがる第四皇子は、磨き上げられた鎧をまとい、その威容は「皇家一の若き将」の名にふさわしかった。此度の都入りは、勝利の報を奏し、あわせて三軍への恩賞を請うためである。 やがて皇都が近づいたその時、遠方より別の旌旗が現れる。太子の御車であると知り、第四皇子はわずかに眉をひそめた。天子は辺境軍に不信感を抱いている。この場で太子を差し向け、道を争わせるつもりか。ここで太子に道を譲れば、勝利に見合う褒賞を得られぬまま、どの面下げて再び辺境へ戻れよう。第四皇子は腹を決め、冷然と命じた。「退く必要はない。そのまま入城せよ」 一方、華蓋の下にある太子もまた、胸中に不安を抱いていた。太子の座は決して盤石ではない。今日の都入りも、誰かの罠に違いなかった。よりにもよって、この場で第四皇子の凱旋と相まみえるとは。ここで道を譲れば、皇子たちの中での威望は地に落ち、天子の疑念をさらに煽ることになる。 「構わん。進め」 その頃、長安街では、一人の覆面の女が城外を見つめていた。当朝の公主、李清韻である。第四皇兄の凱旋を聞き、誰よりも早く迎えようと待っていたところへ、近衛が駆け寄ってきた。「太子と第四皇子の御車が城門で鉢合わせに。双方とも譲らず、このままでは騒乱となりかねません!」 李清韻は眉をひそめ、短く思案すると、即座に命じた。「急ぎ、わたしの御車を出しなさい!」 公主の御車は大通りを駆け、辺境軍の陣列へと突き進む。突然の来訪に兵たちはどよめき、慌てて陣を整えた。公主が軽やかに御車へ乗り移ると、前衛の大将はその姿を見て、手を打って笑った。「おお、突進将軍のお出ましだ!道を開けよ!」 そこへ第四皇子が馬を駆って現れ、声高らかに笑って迎える。かつて公主は男装し、密かに第四皇子の軍に身を置いていた。戦場で正体が知れ渡って以降、二人は幾多の死地を共に越え、兄妹の絆は揺るぎないものとなっていた。親衛たちも皆、公主をよく知っている。騎射に秀でながら方向感覚に難があり、敵陣の奥へ突っ込んでは暴れ回るその戦いぶりから、いつしか「突進将軍」と呼ばれるようになったのだ。 再会の喜びを交わす間もなく、公主は事情を聞き、やがて第四皇子を自らの御車へ招き入れた。 「辺境軍には辺境軍の苦しみがあります。今、二皇兄の立場も厳しい。兄上、もしわたしを信じてくださるなら、御車に乗ってください。二人を乗せ、共に皇城へ参りましょう」 「妹すら信じられぬなら、もはや誰を信じようか」 御車は勢いよく走り、太子の御車の前で止まった。その瞬間、太子の親衛の中の一人が邪心を露わにする。もはや策は成らぬと悟った男は弓を引き絞り、第四皇子の顔へ矢を放った! 第四皇子は百戦錬磨の将。恐れることなく、その矢を素手で掴み取り、全身に凄まじい殺気をまとった。 なおも射ようとしたところを、太子が制し、近衛にその場で斬り伏せさせる。公主は不穏な気配を感じ、第四皇子を見やったが、彼はただ自分を庇い、疑う素振りすら見せなかった。 「太子の座の争いは、これで終わりか。清韻、もし皇城が窮屈なら、いつでも兄と共に辺境へ戻るがよい」 太子は己が理に欠けると感じ、御車を降りて深く一礼した。「配下の統率が至らず、すべては我が責。どうか四弟、信じてほしい。これは決して我が本意ではない」 第四皇子は太子に目も向けず、ただ隣の妹を見る。公主が静かに頷くのを見て、ようやく第四皇子も頷いた。「お前を信じるのではない、妹を信じるだけだ」 その日、長安城では一つの奇譚が語られることとなった。公主が太子と共に第四皇子と辺境軍の凱旋を迎え、三人は同じ御車に乗り合わせて都入りしたというのである。兄妹の情は深く、巷ではしばし美談として語り草となった。 だがその裏で、後宮では新たに立てられた皇后が激しい怒りに燃えていた。第五皇子はいまだ幼く、この上の四人の皇子が争わぬ限り、彼女に順番が回ってくることはない。 一方その頃、公主府では第三皇子が気楽な様子で李清韻の帰りを待っていた。彼女が門をくぐったその瞬間、朝堂では威風堂々たる姿を見せる三皇子は、たちまち本性を現し、榻の上に大の字で寝転がっていた。 「お前は俺の妹か?それとも、あの間の抜けた兄貴の妹か?それとも、あの脳筋武者の妹か?」 李清韻は一顧だにせず、容赦なく一蹴り。三皇子をどかして自分が榻に腰を下ろす。 「まったく、俺を蹴れるのはお前だけだぞ。まあいい、妹はお前一人しかいないからな」と、ぶつぶつと不満を漏らしながらも、三皇子は場所を譲り、公主の傍らに控えた。時は四月、暑さが増し始める頃である。彼は扇を手に、静かにあおぎながら、物音ひとつ立てぬよう気を配っていた。 そこへ、一通の文が届けられる。差出人は大皇子であった。「今日の皇妹は、実に見事であった」。三皇子は舌打ちし、顔をしかめる。「あいつか。掖庭育ちのうえ、足も悪い不吉な男だ。どうして関わる必要がある?」 その言葉に、李清韻は勢いよく立ち上がり、三皇子を鋭く睨み据えた。「あなたは、兄上を陰でそんなふうに言うのですか?」 「兄上だと?あいつは太子を焚きつけ、手を組んで俺と争っているだろう!」 「なぜそんなことを?あなたたちは兄弟でしょう!」 「争いたいのは俺たちじゃない!陛...」三皇子は言いかけて、言葉を呑み込む。「...言ってもお前にはわからん。だがな、俺が争わなければ、どうやってお前を守れる?」 李清韻は一歩踏み出し、三皇子を強く押し出すと、そのまま扉を閉めた。 「言わなくていい。わかる気もない!わたしはあなたに守られる必要なんてないわ!兄弟の情を捨ててまで太子の座を争うというなら、わたしじゃなくてその策士たちのご機嫌を取ってみれば?」 扉の前に取り残された三皇子は、しばし無言のまま立ち尽くし、やり場のない怒りを床に叩きつけるように足を踏み鳴らした。「下がれ!俺の精鋭を、こんな場所で使っても無駄だ...!」 その頃、深宮では皇帝の膳に侍っていた皇后が、公主府の護衛がすべて引き払われたと知り、内心ひそかに歓喜していた。「太子は第四皇子の辺境軍と結び、謀反を企てております。まずは李清韻公主を宮中に召し、問いただすべきかと存じます」と、すかさず言葉巧みに皇帝を煽る。耄碌する皇帝は疑うことなく、皇宮内衛の指揮権を皇后に委ねてしまう。 守りを失った公主府に、皇宮内衛を防ぐ術はなく、李清韻はそのまま宮中へと連行される。「従うなら使う。従わぬなら殺す」と、皇后は冷然と言い放った。 一方、親衛を退かせた三皇子は、ほどなくして己の過ちを悟る。だが時すでに遅く、公主は皇后の手に落ちていた。皇帝の召見がなければ、皇城に足を踏み入れることすらできない。三皇子は迷いを断ち切り、使者を四方へ走らせた。 太子は報を受けるや否や、ただちに三皇子の府へ赴き、太子の権限をもって二人揃って宮中へ急行する。 大皇子もまた静観を捨て、長年にわたり築き上げてきた朝中の勢力を一夜にして動かし、「皇后は謀逆を企て、帝を害して自ら立とうとしている」との噂を、都中に広めた。 第四皇子は、謀反の罪など意にも介さず、城外に集結させていた辺境軍を率いて都へ進軍し、皇宮を幾重にも包囲する。 その混乱のさなか、三皇子が密かに養ってきた死士たちが皇城に潜入し、皇宮内衛が公主に刃を向けた瞬間、彼女を救い出した。こうして四人の皇子は力を合わせ、一夜にして朝廷を一変させ、新たな帝が立てられたのである。 後世の史書は、こう記している。「皇家は必ずしも情のないものではない。李清韻がひとたび姿を現せば、皇子たちの争いは自然と鎮まった。世の人々は、四人の皇子が社稷を守ったのだと語る。しかし、その根にあったのは、皆が一人の皇女を思う心であったことを、誰も知らなかったのである」