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古楽は、礼儀正しい物静かな人物で、琴の腕は見事だが、口下手だった。それを知っている仇越海は、よく彼をからかって遊んでいた。
俺と烈言が同時に川に落ちたら、どっちを助ける?
突拍子もない質問に驚き、思わず琴の音を外してしまった。
「どっちも助ける」
「無理だな。その細腕なら一人助けられれば御の字だ。二人は無理だ」
「それなら......はあ......」
答えに詰まった古楽は、苦笑を浮かべた。
そして、二人とも自分で泳げるだろう、と思った。
二人が初めて出会った日、仇越海は漁師の格好で屋根の上に寝転がり、麦の茎をくわえたまま、足を組んで昼寝をしていた。空は快晴、麦の茎は金色に光っていた。
その日、古楽は烈言の誘いで、契丹との戦に加わるためにやって来たばかりだった。強い日差しに目を細めながら、屋根の上の少年に声をかけた。
「すみません......烈言兄弟はこちらに?」
「烈言兄弟? ......親しい感じだが、兄貴か弟か?」
少年は目を開けて、悪戯っぽく言った。
「いえ......血縁ではなくて......」
「じゃあ義理の兄弟か?」
「それも違って......その、私は琴を弾いていて、烈言兄弟は......」
言葉に詰まった古楽はうつむいて小さく言った。
「とにかく、彼に呼ばれてきたんです」
少年は笑いながら屋根から飛び降りた。
「分かってるって。あいつに呼ばれて、契丹人をやっつけに来たんだろ?」
「俺もだよ。仇越海ってんだ。よかったら、俺のことも兄弟と呼んでくれ」
そう言って肩を叩き、にっこり笑った。
「すまんな、あんたみたいな世間知らずの坊ちゃんを見ると、ちょっとからかいたくなっちまうんだ」
のちに河東八俊と称される古楽と仇越海は、本当の兄弟のような絆で結ばれるようになった。
高山の琴を奏でる貴公子と、野育ちの漁師。まるで伯牙と鍾子期のような、音で心が通じ合う関係だった。
こんな場面もよく見かけた。
古楽が一生懸命説明しようとするが、うまく言葉にできず、「とにかく......」としか言えない。
その隣で仇越海が彼の意図を察し、「つまりこういうことだな」と代弁する。
それを見た周囲は、彼らを「とにかく」と「つまり」の兄弟と呼んで笑った。まさに、知音とはこういうものなのだろう。
少年時代に育まれた友情の深さ、出会えたことの喜び。後に二人が道を違えたとしても、それはまた別の話だ。