テキスト

夕闇が涇河を染め、水は絹のように静かに流れる。 盤ちゃんが遠くを見やれば、船頭の余女が舟を漕いで近づいていた。 その時、かすかなうめき声。 蘭奥の顔は青ざめ、冷汗が伝い、よろめいて倒れそうになる。 盤ちゃんは知っていた。蘭奥の体内の毒が知られれば、厄介なことになる。 ほどなくして、川面のかなたに、余女が舟を漕いで近づう姿が見えた。 「危ない!」蘭奥の体が後ろに倒れ込むのを、盤ちゃんは腰で支えた。 触れた衣服は冷汗でびっしょりだ。 薬袋から丸薬を取り出し、震える顎をそっと傾けて飲ませる。大人の重みを支え続けるのは容易ではない。 蘭奥も離れようともがくが、激痛に体は言うことをきかず、そのまま川へ転げ落ちそうになった。 盤ちゃんは片膝をつき、石が食い込む痛みも顧みず、蘭奥を強く引き戻して石堆みに寝かせた。 蘭奥はもはや抵抗せず、ただ黙っている。 「無理しなくていい。誰かに見られたら、私が殺すだけだ」沈黙を破った蘭奥の声に、盤ちゃんは答えず、岸に着いた余女の方を見た。 「お待たせしましたよ!」余女は受け取った銀貨に目を細め、二人を舟に招く。 盤ちゃんは余女に小さくうなずくと、震えの治まった蘭奥を抱き起こし、ゆっくりと舟へと導いた。 波揺れる舟の中、櫂の音だけが響く。無口な二人を見て余女が尋ねる。「この譲さん、随分と気遣うね。妹さんかい?」返事がないのに構わず、余女は続ける。「いやあ、やっぱり姉妹はいい。一人ぼっちより心強いもんで」 「私の娘だ」蘭奥の突然の言葉に、余女は驚き、「娘!?それにしてもお若く見える…」と感心する。 「拾った子だ」と盤ちゃんが言えば、蘭奥も続けざまに「ええ、拾ったのよ。とても親孝行でな」。 余女は二人を見比べ、納得して笑う。「なるほど、拾った娘でも血の繋がり以上の情があるなら、それは何よりだね」 江の流れに乗って、どちらからともなく笑いが漏れた。 余女もつられて渡し歌を歌い出す。小舟はすぐに笑い声に包まれた。 きっと特別に親しい間柄なのだろう。 たとえ前路が険しくとも、支え合う者が傍らにいれば、どこから来ようと、そこが家族なのだ。