テキスト
こてつは、とても、とても年老いた猫だ。瞳は灰色の膜に覆われ、稲の山に飛び乗るだけでも、しばらく息を整えなければならない。昔のこてつは、どんな猫だっただろうか。亥の刻には倉の梁で爪を研ぎ、子の刻には梁の上で夜番に立ち、物音ひとつあれば虎のように飛びかかる。辰の刻には、食器に現れたばかりの新鮮な魚をくわえて、高い藁山の上でひと眠り。そして、あの人のことも思い出した。抱き上げながら、「こてつ、お疲れさま。稲が梁にまで満ちたら、山に入れるようになるんだよ」と笑ってくれたあの声を。...こうして春が過ぎて秋が来て、秋が過ぎてまた春が巡り、壺の中の新麦も、いつしか古麦へと変わった。キィキィキィ...あの憎らしい鼠が、またやって来た。尻尾を思い切り振っても、舞い上がるのは昔の埃ばかり。もう、鼠ひとつ捕まえられないほど老いてしまった。あの人間は、いつになったら帰ってきてくれるのだろうか。